よく「筋(スジ)をちがえた」とか「「筋(スジ)がのった」とか言いますが、整形外科などで「スジ」と言うと、そもそも「スジ」という解剖学的な分類がないため、「スジ」というものは存在しないとか、「スジ」というのは人間が勝手に作り出した思い込みみたいなものだとか言われたりします。
一般的には筋線維の断裂だとか、腱や靭帯がスジでありそれが傷んだのだとか、筋の一部の萎縮や固縮だとか、筋膜の炎症だとか、色々な意見があり、医学的にはよく「〜〜部筋筋膜炎」や「筋筋膜性〜〜痛」などというわけです。
私の個人的な見解では、筋膜が重なり合って厚くなって紐状になっている部分がスジではないかと考えています。よくステーキなどを焼く前にスジを切りますが、これは筋膜の硬いところを切って焼いた時に肉がひきつれたりしないようにして食べやすくするためです。そもそも、鹿などを解体して肉にして焼いた場合、筋膜をしっかり取り除かないと硬くて歯が立たちません。この筋膜は薄い膜状の部分とそれがより重なって紐状になった部分があります。
この紐状の部分は連なって腱になる場合もありますが、まだ腱のように完全な紐状組織ではなくて薄い膜が重なってできているだけの部分もあり、ステーキ肉などでも確認できます。いわゆるスジを煮込む場合、腱、靭帯、関節包、筋膜などを一緒に煮込むわけですが、要するにコラーゲンの多い部分をまとめて煮込むわけです。
筋膜だけでなく、人体に限らず生物の身体の中には多くの膜状組織があります。腹膜や脳脊髄の硬膜、軟膜、心膜や骨膜などですが、これらは本質的には同じ組織で部位によって組成が若干異なるだけです。
話が逸れましたが「すじちがい」のような病態では、この筋膜が重なり合って厚くなって紐状になっている部分に問題が生じていると思われます。このような筋膜の形態の違いも、いずれは解剖学的に分類され、各々異なる名称が与えられるようになるかもしれません。
経験的に言いますと、実はこの部分に直接的に病変が生じているのではなく、ある程度のユニットに問題があるため結果としてその部分に荷重などがかかりすぎているのではないかと思われます。そのため、「すじちがい」で痛みのある部分にアプローチするより、遠隔の部分を調整した方が効果のある場合があります。しかしこれも一概に言えるものでもなく、頚部や腰部の「すじちがい」状態の場合、それぞれの部位の椎体の状態が変更されることで著効を示す場合もあります。
要するには、人体の問題を考える時、〜〜筋とか、〜〜関節とかではなく、重心の動きを考えてもっと全体的なひとかたまりとして考察すべきではないかと思っています。
最近はレイヤー(層構造)という考え方が徒手療法でも取り入れられており、神経系・筋骨格系・内臓系・筋膜系などの層構造だけでなく、一つの治療を行なった後にまた異なる問題が浮かび上がるという形のレイヤーもあったりします。
システム的には複数のシステムが組み合わさってできているわけですが、これは上肢・体幹・下肢などのシステムというのだけでなく、人体自体が全体として複数のシステムの重なり合いで作動しているという感じですね。
神智学では、肉体とエーテル体・アストラル体・コーザル体など目に見えない部分をサトル体と言ったりしますが、おそらくは情報で構成されているシステム部分だと思われます。情報であれば情報を与えることでより濃いシステムにすることもできるのかもしれません。
そういう意味では「すじちがい」もある種の情報システムの撹乱であると言えるかもしれません。