筋膜リリースは、私の知る限りその元となる技術はアメリカのアイダ・ロルフ博士が提唱したロルフィングではないかと思われます。彼女はこれを1950年代にStructural Integurationとして施術マニュアルを作成し、その後UCLAなどで研究され、1971年にアメリカコロラド州ボルダーにロルフ研究所を設立し技術の発展・普及に尽くしています。
彼女はコロンビア大学で生化学博士号を取得後、オステオパシー・ホメオパシー・カイロプラクティックなどの様々な治療法を研究しつつ、軟部組織に働きかけて、身体の各部位をあるべき場所に配置し全体のバランスを調整する理論と技術を開発しました。
筋肉、内臓など体内のあらゆる期間を取り囲み支持している筋膜に着目し、身体全体の姿勢と動きを重力とのバランスで捉えるという彼女の理論はオリジナリティがありました。また、ヨガ等東洋思想からの影響も受け、身体の可能性を最大限引き出し、それを活かすことにより、人は精神的にも感情的にも全人的に向上することができるという考えを持っていました。これがロルフィングの根本です。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcam/2/1/2_1_37/_pdf
これらの概念および技術は、オステオパシーやカイロプラクティックに逆輸入され、頭蓋骨調製法や内臓マニピュレーション、SOTなどに大きな影響を与えたわけです。
現在、理学療法などで言われている筋膜リリースなどは、もともとここに原点があり、既に完成された治療技術なわけです。決して日本の理学療法士が発見して開発したものではありません。
さて、この筋膜ですが、筋膜というと筋肉を包んでいる膜に限定されているように思われがちですが、筋から腱の腱膜、骨膜、腹膜、腸間膜、胸膜、神経系を包んでいる硬膜やクモ膜、軟膜なども組成が多少違うだけで同様な構造物です。
これらの膜状組織の共通点は、感覚受容器が多数あり、漿液で潤滑されている点です。
関節包や靭帯、支帯などの密度の高い膜組織もこれらの範疇に入ります。
靱帯内の固有受容器の存在が注目され、足底筋膜の感覚器からの入力が運動調節に寄与しているのではないかという報告もあるようです。
さらにこの膜状組織には痛覚の受容器(侵害受容器)が沢山あります。
骨折でも、骨質の部分だけのクラックで骨膜が破損していない場合、痛みがほとんどありませんが、レントゲン上では骨折がわかります。
また、筋断裂でも筋膜の傷みがひどければ痛みも強いようです。
この膜状組織にある侵害受容器からの情報は、情動や動機付けなどに関係している脳の領域で処理されるようです。そのため、筋膜リリースを行うと感情に変化が生じることもあります。
これら膜状組織については2018年に下記のような報告がありました。
<ニューヨーク大学医学部を中心とする研究プロジェクトによって、皮膚を上回る大きさの新たな”器官”が見つかった>米ニューヨーク大学医学部を中心とする研究プロジェクトは、2018年3月27日、科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」で研究論文を発表。
「皮膚の下にあり、消化管や肺、泌尿器系に沿ったり、動脈や静脈、筋膜を囲んだりしている層は、従来、結合組織と考えられていたが、実は、体液を満たし、相互に連結し合う区画が、全身にネットワーク化されたものであることがわかった」とし、「これを間質という新たな器官として定義すべき」と世界で初めて提唱した。
体重のおよそ20%に相当する体液で満たされた間質は、強度の高いコラーゲンと柔軟性のあるエラスチンという2種類のタンパク質による網目構造で支えられており、臓器や筋肉、血管が日常的に機能するように組織を守る”衝撃緩衝材”のような役割を担っている。
また、注目すべき点として、体液の移動通路としての働きがある。この体液がリンパ系に流れ込むことで、いわば、免疫機能を支えるリンパの元となっているのだ。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/03/post-9844.php
つまりは、膜状組織は免疫にも大きく関わっているということです。
徒手療法が様々な効果を生み出す原点は、この膜状組織の活性化にあるように思われます。
膜状組織が歪まないようにするためには、いみじくもアイダ・ロルフ博士が看破したように身体全体の姿勢と動きを重力とのバランスで捉える点にあると考えられます。
当院ではそのような観点から、重心の固着を取り除く施術をしております。